
抜け毛や薄毛は、中高年男性の悩みというイメージがありますが、20代の男性であれば、こうした悩みと無縁というわけではありません。
実は、若ハゲということばがあるくらい、若い年代でも十分起こりうることなのです。しかし、中高年に起こると思われがちな抜け毛や薄毛が20代で起こってしまうと、なんとかしたいと思う気持ちはより切実なものとなります。
今日は若い年代、特に20代に起こりうる抜け毛や薄毛の原因や症状、治療法などについてまとめてみました。
1.抜け毛や薄毛ってなに?
抜け毛や薄毛は、脱毛症という毛髪疾患の一種です。毛髪疾患とは毛髪の病気のことですが、その治療対象となるのは全身の全ての毛髪となります。
毛髪疾患には、毛髪の数の異常、形態の異常、色の異常など、さまざまな症状があります。そんな毛髪疾患における毛数の異常には、毛髪が増える多毛症と、毛髪が減る脱毛症の2種類があります。脱毛症の場合、毛髪疾患自体は全身の毛髪が対象となりますが、特に頭髪の異常が重要視されます。
1-1.頭部の毛髪について
頭部の毛髪を、頭毛といいます。頭毛は日本人の場合、成人で平均して10万本あるといわれています。毛髪には、生えてくる際に固有の周期があります。これを毛周期といいます。毛周期は、成長期毛、中間期(退行期)毛、休止期毛にわけられます。
この毛周期は、全ての毛髪で同時に進行するものではありません。ですので、常に毛髪が存在することになります。頭毛の場合、その85%以上が成長期毛にあたります。中間期毛が1〜2%、休止期毛が10%程度といわれています。したがって、1日当たり、50〜100本弱の毛髪が自然に抜けることになります。
2.抜け毛って遺伝するの?
経験的に、家族に何らかの脱毛症の方がいるとその子どもも将来的に脱毛症を起こすと考えられてきました。たとえば、祖父が薄毛であれば父親もそうであることが多く、孫もいずれは同じ様になっていくというイメージがあると思います。言い換えると、脱毛症は親から子へと代々遺伝するものではないかと疑われてきたわけです。
この経験則から、近年の遺伝子医学の進展に伴い、脱毛症に関しての遺伝子の同定も進められています。そんな中、ヨーロッパの研究チームが男性型脱毛症の原因として有力な遺伝子の同定に成功しました。
2-1.自分がはげるかどうかをみるには、父親をみるべき?それとも祖父をみるべき?
将来の自分の頭部の毛髪がどうなるか、これは人類を常に悩ましてきた問題です。前述の遺伝子は、そんな問題への回答の1つになるかもしれません。
この遺伝子は、母親から受け継ぐX染色体に存在しています。染色体とは、性別に関係する遺伝子で、男性はXY染色体、女性はXX染色体として知られています。これらの染色体のうち、母親からのX染色体にこの遺伝子があるということは、父親から子どもに薄毛の遺伝子が遺伝するというより、母方から遺伝するということを示唆しています。すなわち、子どもが将来薄毛になるかどうかを知るには、その父親よりも母方の祖父の髪をみた方がいいということです。
しかし、この研究チームは、他にも脱毛症に関与する遺伝子があるのではないかと疑っており、父親側の遺伝子にも何らかの因子が存在している可能性を否定できないとしています。脱毛症に関する遺伝子は、現在もまだまだ検索されています。
3.20代の抜け毛の原因ってなにがあるの?
3-1.遺伝
抜け毛や薄毛の原因のひとつに、遺伝子の関与が疑われています。遺伝が原因で起こると考えられている脱毛症に、男性型脱毛症という病気があります。
3-2.自己免疫疾患
人間の身体は、常にさまざまな細菌や異物からの攻撃に曝されています。こうした攻撃から身を守るシステムを免疫系といいます。しかしごく稀に、この免疫系が自分自身の身体の正常な細胞や組織を誤って攻撃してしまう病気があります。これを自己免疫疾患とよびます。
髪の毛を作るための細胞を、自分自身の免疫系が攻撃してしまうことで脱毛症が起こることがあります。このような病気の代表的なものに、円形脱毛症があります。
3-3. 圧力
毛根にかかる圧力も見過ごすことは出来ません。髪の毛を引っ張る様な力がかかる様な髪型を長期間続ける、サイズのきつめのヘルメットや帽子を常にかぶっている、このような毛根に負荷をかける行為は、抜け毛や薄毛に繋がります。
役者がカツラをかぶり続けることも、同じ効果がうまれます。こうしたことにより起こる脱毛症に、結髪性脱毛症や機械性脱毛症があります。
3-4.生活習慣
生活習慣も抜け毛や薄毛の原因になってくるといわれています。栄養不足になると抜け毛が多くなってくることが知られています。
3-5.自律神経
自律神経とは内臓系の働きを調節している神経です。この自律神経には交感神経と副交感神経があります。これらの神経が交互に働き、身体の活動を調整しています。
たとえば、日中活動しているときに優位に働いているのが交感神経です。交感神経が優位になると、血管が収縮するようになります。副交感神経は、その逆になります。だれしも食後に眠たくなる経験があると思いますが、これは副交感神経が優位になった結果です。
交感神経は、ストレスを感じる時にも優位になる傾向があります。仕事上のストレス、家庭でのストレス、人はさまざまなストレスに曝されていますが、20代は学生生活から社会生活へ大転換が起こります。このとき感じるストレスは、交感神経を優位にし、それが頭皮の血管を収縮させます。頭皮の血管が収縮すれば、毛髪への栄養供給が減少しますので、抜け毛や薄毛を生じさせる様になります。
4.生活習慣を見直して、20代の抜け毛から毛髪を守ろう
4-1.食事
毛髪には、実は発育サイクルがあることは前述しました。毛髪は生きているのです。バランスのいい食事をとることは、こうした毛髪の発育にとって、必要な栄養を届けることに繋がりますので、とてもたいせつです。
4-2.アルコール
アルコールは基本的に肝臓で分解されるものですが、分解が間に合わなければ、血液中にアセトアルデヒドとして出ていきます。このアセトアルデヒドには、抜け毛を促進するホルモンを増やす作用があるといわれています。アルコールの飲み過ぎには注意しましょう。
4-3.睡眠不足
寝ている間は副交感神経が優位になるのですが、睡眠不足はその反対となります。交感神経が優位になる時間が長くなり、それにともない血管が収縮している時間も長くなります。寝不足も、毛髪にとっては由々しきことといえます。睡眠時間をきちんと確保する様に心がけましょう。
4-4.運動不足
適度な運動量は、血液の流れを良くします。運動不足ではその逆となります。血液の流れを良くすることは、毛髪の発育にとっても大切ですから、運動不足は毛髪にとっていいことではありません。激しい運動は逆効果であることもありますので、軽い運動を習慣づける様にしましょう。
4-5.タバコ
タバコを吸うと、毛髪にとって大切なビタミンCを消耗してしまいます。ビタミンCは、血管や頭皮を作る時にたいせつなものです。タバコを吸う習慣があるのなら、禁煙をしましょう。もし、自分自身で禁煙が難しいなら、禁煙外来を利用することもいいでしょう。
5.20代に抜け毛をもたらす代表的な病気について
5-1.男性型脱毛症
男性型脱毛症は、英語表記でMale-Pattern Alopeciaといいますが、Androgenetic Alopeciaという表記もあり、最近では、後者の略号としてAGAとよばれることが多くなりました。
5-1-1.男性型脱毛症とは
中高年の男性にみられる頭毛を中心とした脱毛症です。男性とありますが女性にもみられますし、若年層に生じることもあります。なお、女性に発症した場合は、Female Androgenetic Alopesiaの略でFAGAとよばれます。
5-1-2.男性型脱毛症の特徴
30〜40歳代の男性に多いが、10歳代後半で発症することもあります。頭頂部または額部分、もしくはその両方にみられます。
男性型脱毛症とはいいますが、女性にも起こることがあります。女性に起こる場合は、閉経後になります。
5-1-3.男性型脱毛症の原因
男性型脱毛症の原因は、男性ホルモンにあります。男性ホルモンが、頭髪の毛根に作用すると、毛髪が徐々に軟毛化していきます。その結果、毛髪の量が減少し、脱毛症となります。遺伝性があるともいわれています。
5-1-4.男性型脱毛症の症状
男性の頭頂部の場合はO型、額の場合はM型に軟毛化していきます。女性の場合は、額に起こることは稀で頭頂部に起こることが大半です。
男性の全年齢層の3分の1という比較的高頻度に発症しています。進行はとても緩やかです。
5-1-5.男性型脱毛症の診断
男性型脱毛症の症状はとても特徴的なので、症状から診断することが出来ます。
5-1-6.男性型脱毛症の治療法
飲み薬
飲み薬の治療と、塗り薬の治療法があります。フィナステリドという薬効成分の入った飲み薬があります。商品名はプロペシアです。プロペシアは0.2[mg]錠と1[mg]錠の2種類あります。通常は、0.2[mg]錠を1日1回飲みます。
デュタステリドという薬効成分の含まれた飲み薬があります。商品名はザガーロです。プロペシアの次に、承認された新しい薬です。ザガーロは、0.1[mg]錠と0.5[mg]錠の2種類あります。まずは、0.1[mg]錠を1日1回飲むことから始めます。
どちらも、保険診療の適応は受けていないので、自費診療の扱いとなります。
塗り薬
ミノキシジルという薬効成分の配合された塗り薬があります。商品名はリアップになります。男性の場合は5%製剤、女性の場合は1%製剤を使います。これと前述の飲み薬を併用すると、効果が高くなります。
その他
市販の育毛剤や、自分自身の毛髪を頭部以外から取ってきて、脱毛部位に移植するという方法もあります。
5-2.円形脱毛症
5-2-1.円形脱毛症とは
円形もしくは卵円形の境界がはっきりした脱毛部位が、突然に生じる病気です。
5-2-2.円形脱毛症の特徴
円形脱毛症には、幾つかの特徴があります。まずひとつ目は、後天性の脱毛症であることです。決して生まれつきのものではありません。そして、脱毛症が起こった場所は、円形に近い形をしている上に、そうした症状が頭部のみならず全身のいたるところに生じる可能性があります。
経過はさまざまです。自然に治癒することが多いのですが、中には再発を繰り返したり、治りが悪かったりすることもあります。
5-2-3.円形脱毛症の分類
円形脱毛症は、その生じ方から5つの型に分類されています。
・単発型:脱毛が生じた部位が、1か所にのみ生じているもの。
・多発型:脱毛が生じた部位が、複数箇所認められるもの。
・全頭型:頭部全体が、脱毛してしまうもの。
・汎発型:頭部のみならず、全身の各所の毛髪が脱毛してしまうもの。
・蛇行型:側頭部から後頭部にかけて、帯状に脱毛が生じるもの。
5-2-4.円形脱毛症の症状
主に頭部に生じているが、毛髪の生えているところなら、どこにでも生じます。脱毛が生じた部位は、数[mm]から数十[mm]大の円形に似た形の脱毛部位が、1こから数こ見られます。こうした部位が、つながりあって拡大することがあります。
もし、脱毛が生じた部位の周辺部の毛髪が、軽く引っ張っただけでも簡単に抜けてくるようなら、脱毛が起こった範囲が更に大きくなっていく可能性が高くなります。
発症するのに年齢は問いません。幼少期から高齢者までのどの年代でも生じます。特に、20代などの若年齢層での発症が、多いのが特徴です。
男女間で、発症する頻度に差はありません。症状がとても明確なので、特別な検査を行わなくても、診断が可能です。円形脱毛症の20%には爪にへっこみや溝などの症状が現れてくることがあります。
5-2-5.円形脱毛症の治療法について
現在、日本皮膚科学会が、円形脱毛症の診療ガイドラインを作成しており、日本国内で治療が行われる場合は、治療に当たる各医師の経験と裁量の範囲で、これに則って行われます。
このガイドラインでは、脱毛が生じた面積と、脱毛が未だ進行しているのかという2点から、推奨すべき治療法を提案しています。まず、脱毛が生じた面積ですが、25%が境界となっており、25%未満の脱毛面積なら軽症、それ以上の範囲なら重症と規定しています。
進行度合いは、現在進行している最中なら進行期、そうでないなら症状固定期としています。また、年齢に関しては、15歳に境界線が引かれ、15歳以下であればステロイド療法などの全身療法や紫外線療法は行うべきでないとされ、局所免疫療法を勧めています。
5-2-6.20代での円形脱毛症の治療法について
円形脱毛症の治療ガイドラインに沿って、説明します。
#1:脱毛面積25%未満の場合
進行期なら、ステロイド剤の内服療法や、ステロイド軟膏の塗布を行います。症状固定期なら、ステロイド剤の注射や、局所免疫療法を行います。
#2:脱毛面積が25%以上の場合
進行期なら、ステロイド剤の内服療法や、ステロイドパルス療法を行います。症状固定期なら、局所免疫療法を行います。
ステロイド剤について
副腎から作られるホルモンのことを副腎皮質ホルモンといいます、ステロイドはその一種です。ステロイドには、炎症を抑えたり、免疫力を調整する働きがあります。このステロイドを使って出来た薬が、ステロイド剤となります。
ステロイドパルス療法について
ステロイドパルス療法とは、通常の量の10倍以上のステロイド剤を3日程度、点滴で注入する治療法です。大量に使いますが、非常に短期間ですみますので、副作用はほとんどなく、効果も早期に発現する利点があります。
局所免疫療法について
頭皮がかぶれる様な薬剤を円形脱毛症が生じた部分にわざとおき、そこにかぶれを生じさせることで脱毛症を治そうとする治療法です。この治療法は、繰り返すことで効果が生まれます。繰り返す間隔は、1〜2週間程度になります。
5-3.機械性脱毛症
5-3-1.機械性脱毛症とは
機械性脱毛症とは、ヘルメットや帽子など長時間かぶり続けることで、頭部を圧迫することにより生じる脱毛症です。
5-3-2.機械性脱毛症の原因
頭部の圧迫により、頭皮の血の流れを悪くすることです。圧迫する原因としては、きつめのヘルメットや帽子の長時間の着用によるものが多いですが、硬い枕や役者などがカツラをかぶることも原因となり得ます。
5-3-3.機械性脱毛症の治療
原因の除去が優先となります。すなわち、ヘルメットや帽子のサイズを合うものに変える、長時間かぶらない様にするなどです。
5-4.結髪性脱毛症
5-4-1.結髪性脱毛症とは
髪の毛にテンションがかかる様な髪型を常に続けていることにより生じる脱毛症です。女性に多いのですが、男性でも同様のことはおこります。
5-4-2.結髪性脱毛症の原因
毛髪が常に強く引っ張り続けられることにより、毛根が傷んでしまうことにあります。
5-4-3.結髪性脱毛症の治療
原因の除去が優先となります。そこで、髪型を変える、ヘアローラーを使わないなどが有効となります。
5-5.粃糠性(ひこうせい)脱毛症
5-5-1.粃糠性脱毛症とは
頭皮のアブラによって、もしくはアブラによる発疹によって生じる脱毛症のことです。
5-5-2.粃糠性脱毛症の原因
よくわかっていません。
5-5-3.粃糠性脱毛症の症状
毛髪が細くなり、光沢を失います。細くなるだけでなく、しなりもなくなり折れやすくなっています。フケも大量に発生し、毛穴を塞いでしまうこともあります。
5-5-4.粃糠性脱毛症の治療
アブラに対する治療が中心となります。ビタミンBの飲み薬やステロイドの軟膏などが用いられます。
5-6.抜毛癖
5-6-1.抜毛癖とは
抜毛癖とは、抜毛症ともいわれる病気です。これは、自分自身で毛髪を抜いてしまうことによりおこる脱毛症です。すなわち毛を抜いてしまう癖なのです。
5-6-2.抜毛癖の特徴
若い年代に起こることが多いです。ストレスを強く感じている傾向があります。抜毛の起こっている範囲の境界が不明瞭で、しかも手の届く範囲にのみ起こります。
抜毛の起こっている部分に、途中で切れた短い毛髪が認められます。
5-6-3.抜毛癖の治療
一般的に脱毛症は皮膚科の病気ですが、この抜毛癖に関しては、精神神経科を受診することになります。うつ病や不安神経症が隠れていることが多いので、その治療を行なうことになります。抗うつ薬などよる薬物治療を行ないます。
5-7.外傷性脱毛症
外傷性脱毛症とは、やけどやケガなどにより頭皮などの皮膚に傷痕を残してしまうことにより、毛根が破壊されておこる脱毛症のことです。
傷痕を作ってしまっている場合には、永久的な脱毛症となるので、発毛は望めなくなります。脱毛している部分を目立たなくするためには、傷痕を外科的に取り除き、毛髪の移植などを検討しなければなりません。
6.まとめ
抜け毛や薄毛というと中高年の悩みのようですが、20歳代でも起こります。この年で抜け毛や薄毛になると、目立つこともありとても悩んでしまいます。
抜け毛や薄毛は、遺伝子の関与が示唆されています。抜け毛や薄毛の遺伝子には、母方の染色体から見つかっているものがあります。この視点で考えれば、自分自身の将来の頭髪の状態を知るためには、母方の祖父の頭髪の状態をみてみるのがいいでしょう。
また、抜け毛や薄毛には、生活習慣が大きく影響しています。食生活、アルコール、睡眠状態、運動量などさまざまな因子が、毛髪の発育に関連してきます。もし、生活習慣に乱れがあるのなら、こうした面を改善することは、抜け毛や薄毛対策にとても有効になります。
そして、20歳代に抜け毛や薄毛を引き起こす病気もあります。この他、帽子やヘルメットによる圧迫が原因の機械性脱毛症、きつい髪型を続けることで起こる結髪性脱毛症、アブラがたまって起こる粃糠性脱毛症、自分自身で毛を抜いてしまう抜毛癖など、脱毛症にはさまざまな病気があります。
もし、抜け毛や薄毛が気になる様になったら、皮膚科を受診して、こうした病気に該当しないか診察してもらうこともいいでしょう。