
フィナステリドは、現在日本で発毛効果があると認められている成分の一つで、男性型脱毛症(AGA)の治療薬の有効成分として知られています。
基本的には重大な副作用がないとされるフィナステリドですが、臨床医の中にはフィナステリドの副作用について警鐘を鳴らす人もいます。
今回の記事では、フィナステリドの発毛プロセスを学ぶことによって、私たちの身体に与える影響を知り、それによってフィナステリドのもたらす副作用について検証したいと思います。
フィナステリドってなに?
フィナステリドは、1990年代初頭に、アメリカの製薬会社であるメルク社によって開発されて抗アンドロゲン薬です。初めから男性型脱毛症の治療薬として開発されたのではなく、当時は前立腺肥大症の治療薬(フィナステリド5mg配合)として用いられていました。
ところが、フィナステリドを用いて前立腺肥大症の治療をおこなっている患者さんの多数に発毛効果が見られたことから、その効果に注目して、フィナステリドを0.2mg、および1mg配合した男性型脱毛症の治療薬が開発されたのです。
アメリカの食品医薬品局(FDA)では1997年になってこの低用量のフィナステリドに関して、正式に男性型脱毛症の治療薬として認可する運びとなりました。
日本ではアメリカに遅れること8年、2005年にフィナステリドの有効性が正式に認証され、プロペシアなどのフィナステリドを配合した男性型脱毛症の治療薬が発売されることとなりました。
フィナステリドの働きとは?
フィナステリドは男性型脱毛症の治療薬としても用いられていますが、どのようなメカニズムで発毛効果が得られるのでしょうか。
男性型脱毛症の原因
フィナステリドがどのようにして男性型脱毛症の改善に寄与するのかを知るためには、まずなぜ男性型脱毛症が起こるのかについて知っておく必要があります。
男性型脱毛症になってしまう原因はたくさんありますが、中でも男性ホルモンが旺盛になりすぎるということが問題視されています。
一般的にも、精力が旺盛でエネルギッシュで体毛が濃いような男性に、男性型脱毛症が多く見られるようなイメージがあるのではないでしょうか。
これを科学的に見てみると、男性型脱毛症が見られる男性には、男性ホルモンであるテストステロンがより強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロンへと変化している傾向が見られるということなのです。
5α-還元酵素の抑制
男性ホルモンであるテストステロンが、より強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロンへと変化すると、抜け毛が増えてしまうため、男性型脱毛症が進行してしまうということでした。
そこで、テストステロンがジヒドロテストステロンへと変化しないことが重要となる訳です。そこで問題となるのが、5α-還元酵素といわれるものの存在です。
5α-還元酵素はテストステロンがより強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロンへと変化する際の触媒となることが分かっています。
なぜ5α-還元酵素が分泌されるのかについてはよく分かっていないのですが、フィナステリドにはこの5α-還元酵素の分泌を抑制する働きがあるということなのです。
それによって、男性ホルモンであるテストステロンが、より強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロンへと変化することを防ぎ、結果として男性型脱毛症の進行を抑えてくれることとなるのです。
フィナステリドの有効性について
フィナステリドは医薬品であり、臨床試験がおこなわれた後で正式に使用されることとなる訳ですが、実際にはどのような効果を発揮しているのでしょうか・
前立腺肥大症に対する有効性
前立腺肥大症の治療薬として、フィナステリドを用いている患者さんについて調べたところ、全体の25%に対して、前立腺がんの進行を抑制する効果が確認されているということです。
これに関しては、プラシーボ(プラセボ)=偽薬と比べて統計がとられているため、一定の信頼が置けるデータと言ってよいと思います。
ただし、フィナステリドを用いても前立腺がんの進行が抑制できないケースも見られ、その場合、フィナステリドを用いなかった場合よりも前立腺がんの進行スピードが早いことも分かっています。
なぜこのようなことが起こるのか、まだハッキリとしたことは分かっていないということです。なぜなら、フィナステリド自体がまだ開発されてそれほど経っていないからです。また、低用量のフィナステリドでも同様の事が起こるのかもまだ分かっていません。
男性型脱毛症に対する有効性
フィナステリドの働きについて述べた所で、「フィナステリドは5α-還元酵素の働きを阻害し、男性ホルモンであるテストステロンが、より強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロンへと変化するのを抑制する」と述べました。
ジヒドロテストステロンが産生されると抜け毛が増えるとされているため、フィナステリドを服用することによって、抜け毛の予防効果が期待できるという訳なのです。
この説明を聞いて「でも、抜け毛を予防することと発毛は別物ではないのか?」と思ったあなたは鋭いです。確かに、抜け毛予防=発毛効果ではありませんよね。
ただ、ご安心ください。フィナステリドにはちゃんと発毛効果があるというデータが存在しています。半年間に渡って低用量のフィナステリドの服用をおこなった人の48%に発毛効果がみられているということです。
この発毛効果は、フィナステリドの服用期間が長くなることでさらにパーセンテージが上がっていき、1年服用で58%、2年服用で68%、3年服用で78%となっています。
M字ハゲやO字ハゲの改善
男性型脱毛症の原因として、男性ホルモンであるテストステロンが、より強力な男性ホルモンであるジヒドロテストステロンへと変化することがあげられていました。
そして、その際に重要な働きをするのが5α-還元酵素であり、フィナステリドが5α-還元酵素の分泌を抑制することで男性型脱毛症の改善効果を発揮することも先述したとおりです。
ところで、この5α-還元酵素には1型の5α-還元酵素と2型の5α-還元酵素があることが分かっています。1型の5α-還元酵素は主に全身の体毛に分泌しているとされます。
一方、2型の5α-還元酵素は前頭部や頭頂部といった場所のある毛乳頭に多く存在しているとされます。そして、フィナステリドには2型の5α-還元酵素の分泌を抑制する効果があるということなのです。
男性型脱毛症の特徴として、前頭部からはげ上がってくるM字ハゲや頭頂部からはげ上がってくるO字ハゲといったことがあげられますが、フィナステリドにはこういったタイプのはげを改善する効果が期待できるということなのです。
フィナステリドの副作用について
フィナステリドも化学的に製造された医薬品である以上、副作用のリスクから完全に逃れることは出来ません。では、フィナステリドにはどのような副作用があるとされるのでしょう。
重篤な副作用は報告されていない
フィナステリドも医薬品である以上、副作用が出ることは仕方ありませんが、現在のところ「重篤な」副作用は報告されていないということです。
ただし、日本でフィナステリドを配合した男性型脱毛症の治療薬を製造したMSD(旧万有製薬)によると、発症する頻度は不明ながら、肝機能障害が起こる可能性があるということが指摘されています。
男性機能の低下
フィナステリドには重篤な副作用は報告されていないということですが、重篤ではない副作用はいくつか報告されています。その一つが男性機能の低下です。
男性機能の低下が重篤でないのかどうかは人によるのではないかと思いますが、フィナステリドを配合した男性型脱毛症の治療薬を用いている人の一定数に、勃起障害や性欲の低下、オーガズムの異常などが見られるということです。
性欲の低下に関しては、フィナステリドを服用した1%から5%の男性に見られるということですが、フィナステリドを服用していない場合と比べると誤差程度ではないかという指摘もあります。
さらに、発症頻度は1%未満だということですが、精液量が減少したり、勃起不全が起こったり、オーガズムの異常が見られるというデータがあるそうです。
その他の副作用
フィナステリドのその他の副作用としては、発症頻度は不明ながら気分が落ち込んだりじんましんが出たり、乳房に痛みが出たり乳房が肥大したりすることがあるということです。
ポストフィナステリド症候群とは?
ポストフィナステリド症候群とは、フィナステリドの服用を終えた後にもフィナステリドの副作用が続いたり、フィナステリドの服用を終えて一定の期間が経った後にフィナステリドの副作用のような症状が現れたりすることを言います。
近年になってアメリカで注目されるようになった症状で、アメリカではポストフィナステリド症候群財団が経ちあげられており、ポストフィナステリド症候群の研究が進んでいます。
日本でも最近になって注目されるようになったポストフィナステリド症候群ですが、フィナステリドを服用して副作用の出た人の内、さらにその5%にポストフィナステリド症候群が見られるということです。
発症頻度としては比較的低いということは可能ですが、なぜこのようなことが起こるのかが不明なため、現在のところ有効な治療法の確立には至っていないということです。
フィナステリド自体がまだ歴史の浅い医薬品であるため、今後の研究に期待するしかないということなのかもしれません。
フィナステリドは医師に処方してもらいましょう
男性型脱毛症の治療は、基本的に専門の病院やクリニックでおこない、男性型脱毛症の治療薬も医師によって処方されることとなります。
ただ、現在では価格の安い海外のフィナステリドが通販などで購入できるようになっています。ですが、今回説明したような副作用のリスクもあるため、やはり医師の指導下で服用することが重要と言えそうです。