
ミノキシジルは、元はアメリカ合衆国でおよそ50年前に高血圧症の治療薬として開発された経緯を持つ薬剤です。しかしながら、現在では高血圧症ではなく脱毛症の治療薬として使用されており、世界的に普及している薬剤です。
アメリカではRogaine(ロゲイン)という名称で、我が国では大正製薬がリアップという商品名で販売しています。大衆薬ですので、ドラッグストアで購入することが出来ます。
発毛薬としての効果はとても高く、開発元のアメリカだけでなく、日本での販売元である大正製薬の数十ヶ月におよぶ長期間の臨床試験データからも裏付けられ、日本皮膚科学会からもお墨付きをもらっています。
とても効果のある発毛薬なのですが、当初は飲み薬タイプの製剤もありましたが、現在、日本で購入出来るものは頭皮に塗布する液体の塗り薬タイプのみとなっています。これは、開発元企業であるアメリカのアップジョン社(現在はファイザー製薬となっています。)が飲み薬タイプも発売したところ、副作用が発見されたため、飲み薬タイプのミノキシジルの製造販売が行なわれなくなったからです。
飲み薬タイプと比べて、安全性が比較的高いとされる塗り薬タイプの販売のみとなっているミノキシジルですが、残念ながら全く副作用がないというわけではありません。頻度は少ないながらも存在します。やはり、薬剤である以上副作用はどうしても避けることが出来ません。
そこで、ミノキシジルの副作用についてまとめてみました。
現在ミノキシジルに確認されている副作用ってどんなものがあるの?
ミノキシジルは、大衆薬に分類されています。大衆薬は、医師の処方箋が必要ないので、手軽に購入出来る薬です。大衆薬は病院で処方される薬剤よりも副作用の頻度や程度が低く安全性が高いとみなされている薬剤です。
ですので、ミノキシジルの副作用の頻度や程度は比較的軽い部類に当てはまるのですが、現在、肌荒れ、ニキビ、低血圧症、皮膚のほてりなどの副作用がいくつか確認されています。
肌荒れがおこってしまうことがあります。
ミノキシジルの副作用の中で、最も多いとされるものが肌荒れです。頭皮に限らず、肌はとても敏感です。たとえば、シャンプーや石鹸をきれいにすすがなかった場合、その残りのためにかゆみや肌あれが生じることがあります。
ミノキシジルは医薬品ですから、安全性は高いと入っても、やはりシャンプーや石鹸よりも刺激は強いものです。ですので、頭皮に合わない場合、肌荒れを起こしてしまうことがあります。
なお、頭皮の肌荒れは、毛髪の成長にとって大敵です。肌荒れを起こすと、そこの部分の血液の流れが悪くなってしまいます。それにより毛母細胞が必要とするだけの栄養や酸素が届かなくなります。すると、毛髪が成長しにくくなるのです。
発毛を促進するためにせっかくミノキシジルを使っているのに、かえって脱毛の原因になってしまうので、肌あれは要注意です。
ミノキシジルはニキビの発生の原因となることがあります。
ミノキシジルはもともと血管を広げて血圧を下げる薬でしたので、ミノキシジルを頭皮に塗ると塗った部分の血管が広がります。これにより血液の流れと量を改善して、毛母細胞を活性化するわけですが、同時に皮脂腺も刺激してしまいます。皮脂腺が刺激された結果、皮脂の放出が活発化してしまいます。
ニキビの原因はアクネ菌とよばれる細菌です。アクネ菌は、頭皮に限らず皮膚に生じた皮脂を分解して利用することで繁殖しています。皮脂の放出が増加すると、それにともないアクネ菌も増えてきます。また、血液の流れが良くなることで、皮膚の温度も高まり、アクネ菌にとって増殖するに好環境となっていきます。
こうして、アクネ菌の増殖が増殖することによりニキビが発生しやすくなるのです。ニキビは、思春期に特有の皮膚疾患に思われがちですが、実はどの年齢層であっても起こりうるものです。
ニキビの発生により、頭皮の状態が悪化するため、脱毛を起こす理由となる可能性もあります。ニキビが頻繁に生じるようなら、ミノキシジルを中止した方がいいかもしれません。
低血圧
ミノキシジルは、本来、血管を広げるタイプの高血圧症治療薬として開発されました。血管を拡張すると血圧が下がる効果がありますので、ミノキシジルを使うと血圧が下がる可能性があります。
市販されているミノキシジルは塗り薬タイプだけですので、飲み薬ほどの血圧を下げる効果はありません。しかし、頭皮に塗ったミノキシジルが皮膚から吸収され、血管に移行し、血液にのって全身に作用していく可能性は、確かに非常にわずかではありますが、存在しないわけではありません。
そのため、特にもともと血圧が低い方の場合、これが誘因となってさらに血圧が下がってしまうことがあるのです。
血圧が下がってくると、めまいや立ちくらみなど貧血に似た症状が現れることがあります。ミノキシジルを塗っただけでは、そこまで強く血圧が下がる可能性は低いですが、もしそのような感じがあれば、使用を中止して医師に相談する様にしてください。
多毛症をおこすことがあります。
ミノキシジルは、頭皮に塗って使う発毛薬です。発毛効果を発揮することで頭部の脱毛症を起こした部分の発毛を促し、脱毛範囲を縮小し治すことが期待されています。
つまり、ミノキシジルには発毛効果があるわけです。この発毛効果がミノキシジルを直接塗った部分、すなわち頭皮にだけ現れてくれればいいのですが、そうでないとき、多毛症とよばれる状態になることがあります。
皮膚には基本的に毛穴があります。どこの皮膚であっても毛が生えることができます。ところが、頭部やわき、陰部など身体のごく一部を除いて、その毛は軟らかく細い毛です。ちなみに、この毛のことを指して産毛という言い方をしますが、産毛とは胎生期の毛のことを言います。産毛は生まれてくると生え変わってしまいます。産毛と思われているのは、実は軟毛とよばれる産毛に代わって生え変わってきた毛です。
多毛症とは、頭部だけに限らず全身の皮膚の、本来軟毛であるべきところの毛が濃くなってくる病気のことです。男性ホルモンの過剰分泌や、副腎皮質ステロイド剤の副作用などで生じることが知られています。
ミノキシジルは、頭皮に塗ると、塗った場所の皮膚から吸収されて身体に取り込まれます。ミノキシジルは血管に移行し、血液の流れによって広がっていきます。基本的には塗った場所でほとんどが消費されてしまいますので、全身に広がっていくことは稀ですし、例え全身に広がっていったとしても非常に薄い濃度なので、通常、その影響は無視出来ます。
しかし、ミノキシジルは発毛薬ですから、発毛効果はとても高いわけです。ミノキシジルのおかげで毛髪を作る元である毛母細胞に栄養や酸素がたくさん供給されます。この結果として、頭部の発毛効果が発現されるわけですが、同じ理由で頭部以外の身体のどこの部分にも毛母細胞はありますので、毛母細胞が活発化することで、本来軟毛であったところの毛が濃くなってくる可能性があるのです。
ミノキシジルによって多毛症が発現するリスクは非常に低いですが、特に顔に現れやすいといわれています。ひげが濃くなった、まゆ毛が太くなった、もみあげが長くなった、こんなときは、もしかしたら多毛症の一症状であるのかもしれません。
もし頭部以外の手足などの毛が濃くなった感じがするようなら、一度皮膚科で相談することをお勧めします。
皮膚の発赤やほてり
ミノキシジルの血管を広げる作用により、血液の流れやその量が良くなります。血液は熱を持っていますので、その結果としてその周辺の皮膚の温度が上がります。これがほてり感を感じる様になる原因です。したがって、ミノキシジルがきちんと作用しているということの裏返しでもあるのですが、副作用としてあげられています。
なぜなら、ほてりを感じるほどでは、血管が広がり過ぎているとも考えられるからです。ほてるほど熱が上がっていきますと、汗をかきやすくなります。夏場、汗をかくのは汗をかくことで体温を下げようとするからです。頭皮も同じで、汗をかくことで温度を下げようとします。すると、排出された汗を利用して菌が発生することがあります。
この菌は、頭皮に炎症を引き起こす原因になります。つまり、そのまま使い続けていると、かえって脱毛症が進んでしまう可能性も否定出来なくなります。同様に、血管が広がることで、塗った部分がほんのりと赤みを帯びてくることがあります。頬が赤みをさすのと同じ様なメカニズムです。赤みがさした状態を発赤といいます。
それだけでなく、ミノキシジルの刺激が強すぎることで、頭皮が炎症を起こしても発赤は生じます。単に血管が広がっているだけならいいのですが、炎症によっても発赤は起こります。炎症によるものであれば、かえって薄毛を招きかねません。この判断は難しいところなので、発赤が起こったなら、ミノキシジルを中止した方が安心でしょう。
皮膚のかゆみ
ミノキシジルも薬剤の一種です。薬ですからアレルギー反応が生じる可能性もゼロではありません。もし、ミノキシジルにより頭皮にアレルギー反応が生じた場合、かゆみとして現れてくることがあります。
もし、ミノキシジルを使っていて、かゆみが生じる場合は、アレルギー反応を起こしているのかもしれません。アレルギー反応が起こっているなら、ミノキシジルが体質に合わないとも考えられます。使用を中止して、医師や薬剤師に相談する様にしてください。
性的不能症や性欲減退が起こる?
ミノキシジルを塗っていて、性的不能症、いわゆるEDや性欲減退がおこるというひともいるようですが、ミノキシジルとの因果関係は証明されていません。
重大な副作用
前述しました一般的な副作用以外には、重大な副作用が少ないながらも報告されています。重大な副作用とは、すなわち死亡例という意味です。
アメリカでのRogaine(ロゲイン)の開発段階では3名、そして、我が国では発売開始後から平成11年末までの累計で、リアップの使用中に3名の死亡症例があったことが認められています。後者については平成15年に国会でも取り上げられ、問題となりました。
これらの死亡例における死因は心臓血管系の病気となっています。上記の死亡原因とミノキシジルとの直接的な因果関係の詳細は、いまのところ不明であるとされています。
なお、我が国においてリアップの使用後に現れた症状として、心臓血管系の病気の副作用が数百例ほど大正製薬から報告されています。
ミノキシジルの初期脱毛について
ミノキシジルの副作用ではないのですが、使い始めてはじめの頃に抜け毛が増えることがあります。これを初期脱毛とよんでいます。
ミノキシジルを塗ることで、毛母細胞が刺激され、新しい毛髪が生えてくる様になります。新しい毛髪は、塗る前よりも数も増え、太さもしっかりしています。この新しい毛髪が生えてくる前に、古い弱い毛髪が排除される様に抜けてしまうのです。
このために、ミノキシジルの使いはじめにもともとある髪の毛が抜けてしまう様になるのです。しかし、たいていの場合、新しい、そして太い毛髪が生えてくるので心配することはありません。
副作用ではないのですが、ミノキシジルの使用を中止すると・・・
ミノキシジルを使っている間は、発毛効果が得られますので、脱毛の進行が停止し、脱毛範囲が狭くなります。ところが、ミノキシジルの使用を中断してしまうと、脱毛症が再発してしまうことが知られています。
この理由は、ミノキシジルの作用が、それを塗った頭皮の毛根付近の血管を拡張し、血液の流れを改善させ、その量を増やすことで発毛を促進している点にあります。血液には、身体の各所の細胞が必要とする栄養や酸素を送り届けるという重要な役割があります。血液の供給量が増えることで、毛髪の元となる毛母細胞の働きが活性化されます。この結果、発毛効果が発揮されると考えられています。
すなわち、ミノキシジルを使って発毛することができても、実は脱毛症の根本的な原因を治した結果ではないわけです。いわゆる対症療法でしかないので、ミノキシジルを頭皮に塗るのを中止すると、毛髪の再生が停止してしまうのです。
このミノキシジルの性質は、薬剤の副作用というわけではないのですが、使用を一旦中止すると脱毛範囲が再び広がってくるという難点を有しているといえます。
まとめ
ミノキシジルは発毛薬としてとても効果の高い薬剤です。日本では塗り薬タイプのものしか発売が承認されていませんので、安全性は比較的高いとされています。
しかしながら、薬剤である以上、副作用が全くないというわけではありません。ミノキシジルの副作用としては、肌荒れやニキビが代表的ですが、多毛症やほてり、かゆみといったものも認められます。
もし、ミノキシジルを使っていて、こうした副作用と思われる様な症状が現れた場合は、必ず医師に相談する様にしてください。