
ストレスというものは、人間の身体にさまざまな面で影響を与えます。仕事や家庭で問題があり、辛いと思うことが続いた時に、胃が痛くなったり、耳鳴りがしたりした経験がありませんか?
こうした症状は、辛いという思い=ストレスが身体に影響を及ぼした結果、現れたものです。すなわち、ストレスという精神的な影響は身体にいろいろな症状として現れてくるものなのです。それが頭皮に現れれば、抜け毛として認められることがあります。
頭髪が減ってくるというのは、精神的にも余計に辛い思いをもたらしてしまいます。そこで、抜け毛とストレスの関係についてご紹介していきます。
そもそもストレスって何?
現代社会はストレスが多いとか、ストレスをためない様にしようなどいろいろ言われます。テレビや雑誌、あらゆるところで聞くワード「ストレス」とはそもそもなんなのでしょうか?
ストレスとは、生活をして行く上で感じる苦痛や苦悩のことです。精神的なものもあれば、寒暖などの生体的なストレスもあります。ストレスの難しいところは、ストレスの感じ方は人によって異なるということです。
例えばあなたにとって嫌いな食べ物を無理矢理食べ続けることはストレスになりますよね?ただ、もしかしたら私はそれを食べ続けることはストレスに感じないかもしれません。
食べ物に関わらず、あなたにとって嫌いな特定の音があったり、特定の人がいたりなどなど。他人には理解して貰えない不快感を積み重ねることでどんどんストレスを溜め込んでいるのかもしれません。
このようにストレスは外から見てわかるものではないのです。その本人にしかわからない掴みどころがないのがストレスです。
ストレスを解消しよう!と言葉にするのは簡単ですがそう簡単に解消出来ないのがストレス。ストレスを溜め込むと体に悪影響を及ぼします。「抜け毛」も悪影響のうちの一つです。
ストレスを感じるとどうして抜け毛が起こるの?
ストレスと抜け毛。心の問題と体の問題なので一見関係のないことのように思えます。ですがストレスは抜け毛に大きな影響を与えているのです。ストレスによって抜け毛が起きるということを感覚的に捉えるのではなく、その関係性を理解することで予防に繋がります。
ここからはストレスと抜け毛の関係性についてご紹介していきます。
1.ホルモンバランスの変化
ストレスによるホルモンバランスの変化がその原因の1つと考えられています。ストレスを感じることでジヒドロテストステロンとよばれる男性ホルモンが活発に生成されてしまいます。
ジヒドロテストステロンとは男性ホルモンの一種です。テストステロンという男性ホルモンと一緒に語られることが多いです。
まずテストステロン。男性ホルモンの約95%を占めていると言われています。テストステロンは男らしい筋肉を増大させたり、体毛を濃くしたり、性欲を増大させたり、男らしい強いメンタルを生み出したり、女性のモテるようになるなど良いことだらけのホルモンです。男らしさを維持するためにはテストステロンという男性ホルモンを維持することが大切です。
一方でジヒドロテストステロンは先ほどご紹介したようにテストステロンと同様に男性ホルモンの一種です。
ジヒドロテストステロンはテストステロンが「5αリダクターゼ」という酵素と結びついて出来るホルモンです。
ジヒドロテストステロンは薄毛に大きく関係しています。ジヒドロテストステロンには毛を生やす細胞である毛母細胞の働きを低下させる働きがあるため薄毛の原因となってしまいます。
ストレスを多く抱えるとテストステロンの値が低下します。テストステロンが低下すると、低下した分を補おうとして活発に「5αリダクターゼ」と結合し始めてしまい、ジヒドロテストステロンをたくさん作り出し薄毛が進行してしまうのです。
これが「AGA」いわゆる男性型脱毛症です。ジヒドロテストステロンを抑制することが抜け毛、AGA予防に欠かせません。
2.ミネラルの不足
ストレスは、身体の不調をもたらします。それを修復するために、いろいろな栄養やミネラルを消費します。そのなかに亜鉛というミネラルがあります。
消費したミネラを補うためにも重要なのですが、亜鉛は髪の毛の発育にとても重要なミネラルです。亜鉛が不足することで、髪の毛に十分亜鉛が届けられなくなることが、ストレスによる抜け毛の原因の1つと考えられています。
さらに亜鉛は先ほどご紹介したジヒドロテストステロンの抑制にも効果があります。つまり亜鉛は抜け毛予防には欠かせない栄養素のうちの一つです。
3.自律神経の乱れ
ストレスがたまると、自律神経が乱れます。自律神経は、人間が生きていく上で欠くことの出来ない身体の機能を司っています。
そのなかに血液の流れも含まれています。自律神経の乱れにより、血液の流れが悪化すると、頭皮に向かう血液にも影響が出てきます。頭皮の血液が減ると、必然的に髪の毛の発育に必要な血液が不足することになります。こうして、ストレスが自律神経の乱れを引き起こし、抜け毛につながると考えられています。
4.睡眠不足
ストレスを感じるとアドレナリンが放出され、目が覚めてきます。何らかのイベントや試験、大きな仕事の前日などに、緊張して目が覚めて眠れないという経験はありませんか?
実は傷んだ頭皮の修復や新しい髪の毛の発育は、睡眠中に行なわれます。睡眠時間が減少するとそこに影響が表れてきます。睡眠不足も抜け毛に繋がる重要な要因の1つです。
ストレス性の抜け毛の特徴
このようにストレスは抜け毛を引き起こします。ホルモンバランスが乱れ、ミネラル不足、自律神経の乱れ、睡眠不足。
改めてみてみるとこれだけの体の不調が起こると抜け毛が起こるのも納得出来てしまいますよね。
ただ、冒頭でもご紹介したように自分がストレスを感じているのかを判断するのはなかなか難しい問題です。自分の心は大きなストレスと感じていても実は体には影響が出ない程度のストレスだったり、逆に自分では大したことのないストレスだと思っていても実は体は悲鳴を上げるほどのストレスだったり。
ストレスが原因で起こる抜け毛の特徴はストレスが解消されるとともに、自然と治ってくる『一過性』の抜け毛が大半であることです。しかし中には難治性もありますし、再発を繰り返すこともあります。
ここからはストレス性の抜け毛の特徴をご紹介します。
ストレスによる抜け毛とは?
ストレスによる抜け毛の代表格が円形脱毛症(えんけいだつもうしょう)、いわゆる10円ハゲとよばれるものです。
円形脱毛症は、頭頂部に毛がない部分が生じる病気です。形は、円形もしくは楕円形が多く、その大きさは、爪くらいのサイズから手の平の大きさまでさまざまです。抜け毛の生じる場所も1カ所だけの人もいれば、頭部の複数箇所に及ぶようなこともあり、これもさまざまです。
そのため、10円ハゲとは言いつつもその抜け毛の症状は千差万別です。なお、いずれにも共通する特徴として、円形脱毛症は前触れもなく突然抜けてしまうという点があげられます。
ところで、円形脱毛症は頭頂部に毛がない部分が生じる病気と前述しましたが、実は頭皮だけに生じるとは限らないのです。毛がはえているところなら、身体のどこにでも起こりえます。しかも、毛がないところにも生じることがあります。それは爪です。爪に生じた場合は、爪の表面に小さなくぼみや溝が生じるようになります。
つまり、円形脱毛症は頭皮に抜け毛を生じるイメージですが、実はそうではなく体中のどの毛にも起こりえる上、毛以外のところにも発症する病気なのです。
円形脱毛症の原因
円形脱毛症の原因については、まだ確定はしていません。以前は、ストレスを感じると起こる様な遺伝子が関与している遺伝性の病気ではないか、ストレスにより自律神経が乱されておこるのではないかと考えられてきました。
しかし、現在は、こうした考え方はなされなくなりました。毛髪の元は、毛母細胞とよばれる細胞です。何らかの原因で、免疫力に異常が生じることで、この毛母細胞を異常に攻撃してしまうことが原因で、発症しているのではないかという考え方が有力になっています。
免疫とは、本来は身体に入ってきた異物や細菌を排除しようと抵抗する作用なのですが、これが誤って自身の身体を攻撃してしまう、こうした病気を自己免疫疾患といいます。円形脱毛症も自己免疫疾患ではないかと疑われているのです。
円形脱毛症とストレスの関係については、一般的に思われているのは、ストレスを感じた時に円形脱毛症になるという関係だと思われます。確かにそういう患者さんもいますが、精神的なストレスというのは、円形脱毛症をおこすきっかけの1つでしかありません。
多くの場合、精神的なストレスとは関係なく円形脱毛症が起こります。一例では、ストレスとは関連がなさそうな赤ちゃんでも、円形脱毛症を起こすことがあります。
ストレスは、円形脱毛症のきっかけではあるけれども、根本的な原因とは考えられていません。
円形脱毛症の治療法
日本皮膚科学会が円形脱毛症の治療用ガイドラインを作製しており、我が国で円形脱毛症の治療を受ける場合は、このガイドラインに則って行なわれることになります。
1.初期段階
副腎皮質ステロイド軟膏などの塗り薬を抜け毛の部分に塗ります。更に、グリチルリチン製剤やセファランチンと呼ばれる飲み薬を同時に飲むことも有効とされています。
副腎皮質ステロイドとは、炎症反応だけでなく、過剰な免疫反応を抑える働きがある薬です。飲み薬、注射薬、軟膏など、いろいろな製剤が作られています。
グリチルリチン製剤とは、肝臓病に使われる薬ですが、炎症やアレルギー反応を抑えるさようがあることから、湿疹や口内炎にも使われる薬です。
セファランチンとは、造血薬の一種です。アレルギー反応を抑えたり、血液を作り出したりする効果があります。
2.抜け毛が長期に及ぶ場合
抜け毛の部分に副腎皮質ステロイドの注射を行ないます。ただし、この注射による治療法は注射したところにのみ毛が生えてきますので、広い範囲に及ぶ抜け毛には適応しにくいです。
また、ドライアイスを使った冷凍療法という治療法もあります。これは、頭の上にドライアイスを置き、抜け毛部分の頭皮を軽く冷やすものです。これにより頭皮の血行を改善し、発毛を促進するのです。
3.進行が急激な場合
円形脱毛症が急速に拡大する場合は、副腎皮質ステロイド剤の飲み薬を飲むことになります。ただし、数ヶ月以上にわたる長期間の投与は、副作用が起こる可能性が高くなってきますので、一般的に2〜3ヶ月までとなります。
なお、この後にたとえ再発することがあっても、副腎皮質ステロイド剤を再び飲み始めるということはしません。また、こどもの円形脱毛症には使えません。
4.6ヶ月以上続く長期間の円形脱毛症の場合
発病からの経過が長期に及び治りが悪いようであれば、局所免疫療法という治療法が行なわれることがあります。
局所免疫療法は、頭皮がかぶれるような薬をわざと抜け毛の部分に塗り、そこに軽いかぶれを生じさせます。これを何度も繰り返すという治療法です。繰り返す間隔は、1〜2週間に1回程度のペースです。3分の2ほどの円形脱毛症患者に有効といわれていますが、治療を中断すると、再発してしまうこともあります。
新しい円形脱毛症の治療法
最近では、前述した従来から行なわれている治療法以外に、さまざまな新しい治療法が開発されています。
1.低出力レーザー照射療法
出力を低く抑えたレーザー光線を抜け毛部分に照射する治療法です。出力が低いため、痛みを伴うことはありません。誤解を恐れずに言えば、レーザーポインターを照射する様なイメージです。ですので、目に入らない様に気をつけなければなりません。
レーザー光線の働きで、照射された部分の頭皮の血行が改善されます。これにより髪の毛に栄養や酸素が十分届く様になり、こうして発毛を促進する治療法です。
2.紫外線療法
従来から難治性の円形脱毛症には紫外線療法が行なわれてきましたが、新しい紫外線療法では、波長が異なるエキシマライトというものを利用します。
この作用は、毛母細胞に免疫細胞が誤って攻撃してしまうのを防ぐところにあり、毛根をこうして守ります。
円形脱毛症にならないために
円形脱毛症の治療法にはいろいろな方法がありますが、抜け毛自身を予防出来るならそれにこしたことはありません。予防には、円形脱毛症の発症のきっかけの1つであるストレスを抑えることが有効です。
ストレスを抑えることをストレス管理といいます。ストレスをコントロールすることは、円形脱毛症になりやすい条件を1つ減らすことに繋がります。そこで、ストレス管理の方法についてご紹介していきます。
心の健康づくり
現在、厚生労働省では労働者のメンタルヘルスケアを積極的に推進しており、『心の健康づくり』を提唱しています。メンタルヘルスケアとは、精神的な面からの健康管理のことをいい、ストレス管理もここに含まれています。
厚生労働省では、メンタルヘルスケアを、『セルフケア』『ラインによるケア』『事業場ない産業保険スタッフなどによるケア』『事業場外資源によるケア』の4つのケアにわけて考えられております。
このうち、『セルフケア』は労働者自身によって行なわれるもので、ストレス管理が主な内容となっています。ストレスを軽減するために、これを応用することも有効と思われますので、4つのケアのうち、セルフケアについて紹介します。
セルフケア
セルフケアは、文字通り自分自身で行なうストレス対策のことです。ここでのセルフケアは『ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解』『ストレスへの気づき』『ストレスへの対処』の3本柱から成り立っています。
ストレス要因の除去や軽減などの予防措置が重要となりますが、そのためにもストレスに対する理解と、それに気がつくこと、ストレスがあった場合の対応というのが基本的な考え方です。このストレスに対する理解をしてもらう対象には家族も含まれています。
また、ストレスに気づくために、ストレスチェックをすることを勧めています。家族によるストレスの気づきも有効です。もしストレスがあると示された場合には、本人や職場だけでなく家族を含めて対応を行なうことが効果的とされています。
これは、抜け毛を防ぐためのストレス管理にも応用出来ます。ストレスとはどういったものかを理解し、それに気がつくことでストレス対策を打ち立てることが出来るからです。ストレスを管理できれば、ストレスによる抜け毛対策にもなります。
ストレスを解消するために
代表的なものをいくつか列記しますが、その方法以外にもたくさんありますので、その中から自分自身に合った方法を選ぶことが大切です。ここで注意すべきことは、無理にストレスを無くそうとしないことです。
ストレスを無理に無くそうとすること、それ自体がストレスになるからです。あくまでもリラックスしてストレス対策を講じることがポイントです。
1.趣味の活動
なにか楽しめる趣味を持つことで、気持ちを楽しく軽くすることが出来ます。周囲の人は、こうした趣味を温かく見守ってあげる様にしましょう。
2.温泉
温泉療法という方法があります。温泉には、疲労回復や病気からの体力回復効果だけでなく、ストレス解消効果もあります。
3.運動
ストレッチ体操など、運動は身体の中の血液の流れを良くしたり、むくみを改善したりします。身体の中の流れを良くすることで、一日の疲れを取りやすくなります。疲れをため込みにくくなることで、ストレスから解放されやすくなります。
4.自然の中で過ごす
雄大な山々に囲まれたり、川のせせらぎや小鳥のさえずりを聞く、こうした日常生活から離れる経験は、ストレス対策に効果的です。
5.社会活動
他人から必要とされていると感じられると、充実感を得られます。
6.深呼吸
深呼吸をすると、緊張が緩和され気持ちがリラックスします。そのために深呼吸をすればストレスも減らす効果があります。
7.瞑想や座禅
瞑想や座禅には、リラックス効果があることが明らかになっています。不安の解消や幸福感が増したりする効果もあるそうです。こうしたことから、瞑想や座禅はストレスの解消に有効と考えられています。
8.祈り
宗教的な意味合いは別として、祈りは脳に強い影響を与えることがわかっています。いい意味で祈りをすると、脳の中に気持ちをよくするホルモンがたくさん出されるようになることが知られています。
9.動物とのふれあい
動物と触れることは、精神的な健康増進の効果があることが知られています。アニマルセラピーというストレス解消法もあるほどです。
10.ヨガ
ヨガには、身体を動かすだけでなく、身体から無駄な動きをなくし、心をすっきりとさせる効果があるといわれています。このため、ヨガもストレス解消に効果があるといわれています。
まとめ
ストレスとは、生きていく上で身体に加わる苦痛や苦悩のことを言います。現代社会では、皆がそれぞれストレスを感じながら生きています。ストレスが加わってくると、その影響は身体に様々な症状が現れます。
ストレスが続いた後に、胃が痛くなったり、耳鳴りがしたりした経験はありませんか?ストレスの影響は、それだけではなく、毛が抜けるという症状もあります。
ストレスによる抜け毛は、ストレスのために亜鉛というミネラルが不足することによる影響、ホルモンバランスの変化による影響、自律神経の乱れによる影響などいろいろな原因で起こると考えられています。こうしたストレスによる抜け毛の特徴は、そのほとんどが一過性の抜け毛であり、ストレスがなくなると改善していくことにあります。ただし、治りが悪いケースや、再発するケースもあります。
今日ご紹介したストレス解消方法はあくまで一例ではあります。ですが、大きなストレスを抱えている状態ではアクティブになることを避けがちです。面倒でもご紹介したうちの中から一つでも試してみてください。