
脱毛症とは、毛が抜けてくる病気全般を指しますが、特に頭部の髪の毛が抜けてくる病気を指していっていることが多いです。頭部の脱毛症は、とても目立ちますので、古来ヒトを悩ませてきました。そこで、いろいろな育毛剤や発毛剤が作られてきました。しかし、その効果は、どれも脱毛症の改善効果に対して期待の薄いものばかりでした。
そんな中、近年の著しい医学の進歩は、そんな育毛剤や発毛剤の開発にも光明を見いださせることになりました。医学的な研究論文により発毛効果の裏付けがとれた発毛剤が開発されるようになりました。すなわち、脱毛症に悩まされている患者にも恩恵を与えるようになってきたのです。
脱毛症の改善効果を臨床的に認められた薬剤のひとつに、ミノキシジルという発毛薬があります。ミノキシジルの発毛効果については、たくさんの研究機関により発表された論文にも認められています。そのため、現在ミノキシジルは、発毛剤、いわゆる毛生え薬として著明な効果があることが、日本皮膚科学会はもちろん日本の厚生労働省や、それだけでなく世界各国からもお墨付きを受けています。
そんな発毛薬、ミノキシジルがもっている脱毛症への効果・効能についてまとめてみました。
ミノキシジルってなに?
ミノキシジルという名前は、薬剤の成分の名前です。一般に販売される時には、わが国ではリアップという商品名で塗り薬として大正製薬から発売されています。ちなみに、海外ではリアップではなくRogaine(ロゲイン)という名称で売られている様です。しかも塗り薬以外にもタブレットなどいろいろなタイプがあります。
ミノキシジルは、男性型脱毛症の治療薬の先駆者とも言える存在ですが、実ははじめから発毛剤として開発された薬剤ではありません。元はと言えば高血圧症を治すための血管を広げる薬、血管拡張薬としてアップジョン社(現在のファイザー製薬)により開発された薬です。ところが、高血圧症の薬として使っている間に、高血圧症の患者のうちで脱毛症のある患者に毛が生えてくるという症状が現れてきました。
当初は、これは副作用としてみられていたそうです。しかし視点を変えてみると発毛作用として考えることができます。そこで、その発毛効果から脱毛症の薬として使えないかということで、高血圧症の治療薬ではなく塗り薬の発毛剤としてロゲインという名称で発売される様になりました。
余談ですが、近年はこのような本来期待された薬効以外の症状にも効果があることが認められた薬剤が増えてきています。ミノキシジルは当初は、飲み薬(内服薬)のタイプもあったのですが、副作用が認められたこともあり、現在では塗り薬(外用薬)として販売されています。
ミノキシジルにはどうして発毛効果があらわれるの?
どうしてミノキシジルが脱毛症に効果があるのかは、いろいろな見解があり、正確なところは定まってはいないのが実際のところです。さまざまに提唱されているメカニズムのなかで、有力な仮説を記載します。
ミノキシジルは、血管を広げる効果を狙って作られた薬です。ミノキシジルを塗ると、塗った場所の血管が広がってきます。血管が広がりますと、その部分の血液が流れやすくなります。血液は、身体の細胞に栄養や酸素を送っていますので、その量や流れがよくなれば、より多くの栄養や酸素が細胞に届けられることになります。
この効果は、もちろん毛の元となる毛母細胞とそれに包まれている毛乳頭細胞という細胞に作用します。毛母細胞に流れる血液量が改善されることで、毛母細胞などに送られる栄養や酸素が増えますので、それらの活動が活発化します。すなわち、毛髪の発生が促され、発毛が促進されるのです。それだけでなく、これらの細胞がおこす細胞分裂が加速され、よりたくさんの毛母細胞や毛乳頭細胞が生まれ、更に発毛が促進され、ひいては健康な髪が増えていく様になります。
ちなみに、毛母細胞の活動が低く、その機能が十分果たされていないと、毛髪はしっかり成長することが出来ません。その結果、細くて短い毛が増えてしまいます。このような毛は、弱いので抜けやすく、やがて脱毛症を生じる様になります。
こうして、脱毛症が改善していくと考えられています。ホルモン系に影響を及ぼさないので、女性の男性型脱毛症にも使うことが出来ます。ただし、授乳中は使うことは出来ませんので注意しましょう。ただし、このように脱毛症の原因を直接治療するのではないので、ミノキシジルを塗るのをやめると、脱毛症が再発するといわれています。
大正製薬によるミノキシジルの効果についての報告について
ミノキシジルを日本国内で販売している大正製薬は、5%ミノキシジルを使った場合の臨床試験の結果を報告しています。なお、5%ミノキシジルとは、リアップX5として発売されています。
それによると、臨床試験は、24週(約半年)と、52週(約1年)の2種類の期間に分けて行なわれたようです。厚生労働省には、製造と販売の承認を申請する際のデータとして、後者の52週使ったデータを提出しています。
医師の評価では、8週頃から改善が少しずつ現れる様になり、12週頃には半数に少し症状の改善が認められる様になります。そして、16週頃には約1割に密度は薄いながらも新しく生えてきた毛髪により、脱毛部位が覆われてくる様になり、28週頃にはそれが半数の割合にまで増えます。そして、24週ごろから脱毛部位がほぼ完全に覆われてくる著明な改善が認められる様になります。著明な改善は、52週以降には1割程度にまで増えてきます。
つまり、半年くらいから症状の改善の割合が高まってきますので、長期にわたって継続的に使うことが効果的なようです。
一方、使っている側の感想としては、12週頃にはおよそ半数が発毛を実感しており、最終週の52週目になれば、その割合が90%以上にまで増えています。
客観的な評価として、1平方センチメートル当たりの毛髪の数の比較もあげられています。4週間では1.4本だったのが、8週間後には19.0本と劇的に増えています。そして12週後には23.7本と効果が認められます。
また、毛髪の太さについては、40マイクロメートル以上を基準とし、4週では1平方センチメートル当たり0.8本しかなかったのが、8週目には15.3本、12週目には23.9本と毛髪の質も、太くかつ強くする効果があるようです。
日本皮膚科学会のガイドラインでもミノキシジルの効果が認められています。
ミノキシジルの発毛効果は、日本皮膚科学会でも認められています。同学会が出しています2010年の男性型脱毛症診療ガイドラインにおいて、ミノキシジルの効果について言及しています。なお、ガイドラインとは、現時点での標準的治療法として作られたものです。
病気の症状は、千差万別ですから、あらゆる場合において適合するわけではありませんが、それぞれの場面において最適な治療法を提供するための一助とする目的に作製されています。
このガイドラインは、ミノキシジルに限らずいろいろな薬や治療法を、国内外の論文を集めて分析した結果作成されたものでして、信頼性のとても高いものといえます。
ミノキシジルの外用は有用かという問いに対して、男性・女性共に、推奨度の分類がA(行なうよう強く勧められる)とされています。
この結果は、男性患者約150症例と女性患者300症例に対して行なった臨床試験の結果に基づいています。ミノキシジルを24ヶ月投与した男性患者の場合、1年以上の長期投与で発毛を認め、しかも2%と5%のミノキシジルでは、5%の方が有意に発毛が促進され毛髪量が増えたとされています。
一方、女性の場合は、1%と2%のミノキシジルで比較が行なわれ、男性と同様、有意な発毛促進効果を認めました。なお、気になる副作用については、ミノキシジルの濃度による差は認められませんでした。
この結果から、ミノキシジルの発毛効果に明確な根拠があるとし、日本皮膚科学会では、男性型脱毛症の治療に、男性の場合5%ミノキシジルを、女性の場合1%ミノキシジルを、最初の選択肢として使うように勧めています。
ミノキシジルに効果があるかどうかのポイントってあるの?
どんなヒトにでも効果のある薬というものは残念ながらありません。発毛剤についても同様です。ミノキシジルも効果の乏しいヒトも、当然ながらいます。ミノキシジルの薬は、高価ですし、長期に及んで使用しなければならないので、自分自身で効果があるのかどうかを見極めたいところです。
そんなとき、このようなポイントに目を付けてみてはいかがでしょうか。
①脱毛部位に毛が生えてきているかどうか
ミノキシジルでもいきなりフサフサになることはさすがにありません。たいていの場合が、細い毛が徐々に生えてくる増え方をします。脱毛部位を観察していて、産毛の様な細い毛が生えてきていたら、発毛効果があらわれていると認められます。
②脱毛範囲の変化
ミノキシジルの効果が現れれば、脱毛を起こしている面積が縮小してきます。脱毛範囲が小さくなっていれば、ミノキシジルの効果があるといえます。
③髪の毛のハリ
ミノキシジルには、髪の毛を増やす効果と、太く強くする効果があります。そこで、指で髪に触れてみて、髪の毛のハリやコシを確かめてみてください。以前より現れていたら、ミノキシジルの効果がでている可能性があります。
④抜け毛の量
脱毛症でないヒトでも、髪の毛は周期的に抜けます。これは、毛に毛周期という生えてから抜けていくパターンがあるからです。ですから、ミノキシジルを使っていても、毛は抜けます。そこで見てほしいのが、抜け毛の量です。たとえばお風呂で髪を洗ったときの抜け毛の量が減ってきていれば、ミノキシジルの効果ありと認められます。
ミノキシジルの効果を高めるために
ミノキシジルを単独で頭皮に塗るのも十分有効な抜け毛対策なのですが、おなじ脱毛症の治療薬であるフィナステリドやデュタステリドを併用すると、より発毛効果を高めることが出来ることがわかっています。
フィナステリドとは商品名プロペシア、デュタステリドは商品名ザガーロという名称で発売されている飲み薬タイプの発毛薬です。前者は錠剤薬、後者はカプセル薬です。
これらはともに、ミノキシジルとは異なり、ドラッグストアで購入可能な大衆薬ではありません。入手するためには、医師の診察を受けた上での処方箋が必要となります。ただし、保険診療で処方を受けることは認められていませんので、自費診療扱いとなります。
その費用は、受診する医療機関によって異なりますので、相談してください。フィナステリドには、安価な薬剤である後発医薬品フィナステリド(同じ名前なので紛らわしいですが)があります。プロペシアが高価な場合は、フィナステリドを検討してみることが出来ます。一方、デュタステリドはまだ新しい薬剤であるために後発医薬品は発売されていません。
なお、フィナステリドは妊婦や授乳婦は使用禁忌です。そして、デュタステリドは女性に使用禁忌となっています。
まとめ
ミノキシジルは、脱毛症の治療薬としてとても効果の高い薬ですが、本来は高血圧症の治療薬として開発された薬です。発毛効果のメカニズムはよくわかっていませんが、血管を拡張する作用により、毛髪の元となる細胞が活性化されることがその理由ではないかと考えられています。
そのミノキシジルは、国内ではリアップという商品名で発売されています。リアップは大正製薬が発売しており、その効果は、発売元の大正製薬だけでなく日本皮膚科学会からも認められています。
なお、リアップを購入したい場合は、リアップは大衆薬ですので、ドラッグストア等で購入することが出来ます。
気になるミノキシジルの効果ですが、医師による発毛状況の評価では6ヶ月ごろから、使っている方の発毛実感としてはおよそ1年目あたりから発毛効果が認められる様になります。
髪の太さについては、8週頃から顕著に太い毛が増えてくるようです。つまり、すぐに発毛が起こる薬ではなく、長期的に使用を継続することが大切であるといえます。
もし、ミノキシジル単独で効果が乏しいと感じるようなら、フィナステリドなどの飲み薬タイプを併用するのもいいでしょう。ただし、こちらはミノキシジルとは異なりドラッグストアでは購入出来ませんので、医師の診察と処方箋が必要となってきます。